折り紙による未熟な鹿

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-CONCEPT

2020年12月ごろ、この年の干支である牛にちなんで『折り紙による牛の頭骨』をデザインした。 動物という自然が作り出した美を再構築するというテーマは人間の創作にとって永遠のテーマに思える。 『折り紙による牛の頭骨』をデザインしていく過程は、折り紙をするという楽しみに加えて、牛という存在の完成された美の片鱗に触れるという楽しみを大いに感じられるものだった。 また創作手法として私を惹きつけたのは、

動物の一部に注目し、それを折り紙に再構築するという行為だった。 折り紙で動物の全身を表現するためには、解釈の「解像度」を下げることが私の今の技量では必要だ。 より深く対象について追究するために頭部という、おそらく最も各々の動物を特徴づける部位に焦点を当ててデザインすることはいいアイデアに思えた。

 あまたいる動物の中で鹿を選んだのはインテリアという最近のテーマとの親和性がの高さが一番の理由だろう。 つまり、牛の頭骨と同様に鹿もインテリアとして古くから人の住まいを飾ってきた歴史に着目したのだ。 鹿のほかにも、もちろん魅力的な動物がいるし、それらについてもデザインを進めているが、ひとまず今回の鹿というテーマについて筆を進めていきたいと思う。

鹿をデザインするにあたって設定したコンセプトは主として2つだった。 それらを最もシンプルに表すと「表現の解像度」と「線の表現と面の表現の調和」となる。

既に述べているように、今回は鹿の頭部という一部分に絞ってデザインを進めることにしていた。 もちろん、抽象的な形(例えばキュビズム的な表現)によっても対象の追究ということはできる。 しかし抽象は具象に先立つものではないというのが私の持論である。   抽象的な表現にいそしむ楽しみは後々に取っておきたいのだ。そこで、今回は折り紙的に写実的かつ高解像度の表現をコンセプトの1つとした。

2つ目のコンセプトも写実的な表現への指向から来るものだ。 以前作成した牛の頭骨は、それ自体がつるりとした面で構成されるものであるため、折り紙における表現としても「面」に注目したものを用いた。 しかし、こと鹿というテーマの表現においては「毛」という「線」の表現も「面」の表現と同様に重要だと私は考えた。 「面」と「線」の調和という、ワイングラスで取り組んでいたテーマを、動物というより複雑な対象においても試してみたいというのが2つ目のコンセプトだった。

-DESIGN

写真は今回の作品を作るにあたって制作した初期の習作群だ。 制作順としては右下、左上、右上、左下となる。 最近の私のデザイン手法では、まず全体の紙をどう配分するかを決める。 その後に起点となるパーツを探し、そこから徐々に全体の解像度を上げていくのだ。 第一段階である紙の配分では、対象の表現に必要な最も基礎的な角の数と長さ、そしてそれを紙の中にどのように配置するかを決める。 この段階の習作が写真の右下のものにあたる。

今回はツノが2本、耳が2つ、顔、土台部分がベースになり、シンプルな構造ゆえに直ぐに確定させることができた。 (専門的に言えば、正方形の上部の角カド2つを角に、耳を辺カドとして、そこから付随する内部カドを顔に、残りすべてを毛と土台の表現にする、といった配置。 スケッチ1を参照。)

角配置を決め、ひとまず大まかな完成形への見通しを立てた後は、鹿について詳しく調べることにした。 その一部について少し紹介しておく。 鹿は古来より狩猟の対象として、食料として、童話や諺として、とてもポピュラーな動物だ。 生物学的にはウシやキリンと同様に哺乳類偶蹄目に属する。 日本の動物園や奈良などでよく見かけられるニホンジカは体毛が比較的薄く、今回のコンセプトの一つである毛の表現にあまり適さない。

そこで北アメリカに生息するアメリカアカシカ(現地ではエルク、ワピチとも呼ばれる)の冬毛の状態を資料として用いることにした。 本来であれば、実際に観察しスケッチをすることが最良の下調べとなるが、それは叶わなかったのでインターネットや図鑑上の写真からスケッチをし、実物はインテリアとして飾られているものを見ることで代用した。 また、面の表現としてペーパークラフトの作例も大いに参考になった。

  他作品の制作と並行して2週間程度資料を集め、ある程度鹿について理解が深まったため、部分的な習作の制作に着手した。 鹿の頭部、というより一般的な動物の頭部の折り紙的な要は「鼻」だと私は考えている。 顔面の中心に位置しており、他部分よりも突出している部分だからだ。 そこでまず鼻から鼻筋にかけて習作を作った。 先程の写真の左上のものにあたる。

少々専門的な話になるが、鼻筋の表現に用いた立体化構造が今回の作品の折り紙的な一番の面白さだと思う。 これによって顔を構成する内部角が横から見て三角柱のように立体化され、顔の面的な表現を支えている。 また立体化構造によって生じるtanθ=1/2の角度のずれをツノの接続部分で吸収することで生え際の表現に説得力を持たせることができた。

また、鼻と目は基本グリッドの半分の幅に変換したうえで表現しているが、立体化の接続部分に幅変換構造をうまく絡めることができたことも個人的には気に入っている。 また、幅変換で生じた一連のヒダは毛の表現に用いているミウラ折りの起点としても作用している。

 さて折り紙の専門的な話はこのくらいにして、全体習作についても見ていきたいと思う。 鼻から目、そして首下あたりの毛までは比較的すんなりといったが、全体習作での問題は「耳までの毛のつながり」、「ツノの表現及び接続」、「台座部分の表現及び接続」の3点だった。

これらの問題は非常に難解でありつつも、必ず解けそうではあるという抜群の歯ごたえのするものだった。 結局、習作では満足のいく答えが出ず、またインサイドアウトの出来栄えを確認することが出来ていなかったこともあり、仮構造のままで本折りに移行した。 失敗という偶然や直感の力を多分に借りてなんとかある程度の形にまとめ上げた。 それが今回の完成形となるものだ。

また、今回は実験的に定点で撮影した写真をGIFにして、完成までの道のりをコマ撮りのように記録した。 後半はあまり写真をこまめに撮っていないため尻すぼみのようだが、自分が迷いなく一瞬でこの作品を折りあげたような小気味よさがあって面白い。 (実際は迷いに迷った末の結果なのだが…)

-COMPLETE SHAPE

正面、ナナメ、横とSNSには発表していない裏側からの写真。 長いツノを撮影するのは思いのほか難しかった。 画角ギリギリを攻めてなんとか全体を収めることができた。 基本色の茶色(紙はNTラシャのセピアの裏側をアクリル絵の具で着色)の補色として紺色を背景色にし、落ち着いた画面にまとめた。

 

 今回の作品はひとまず区切りとして完成としたが、心残りはやはりいくつもある。 一番はツノの構造だ。 接続部分と立体化部分に留め折りなどの補強構造を十分に仕込めていないため、少しツノが垂れ下がってしまうのだ。 針金などを入れてもいいが、出来れば紙の持つ力を活かしたい。

またツノの成長具合からしてもまだ「未熟」なのでより成熟した、立派な角を持った鹿も作ってみたい。 今回得た様々な学びから、ワイングラスのようにバージョンアップを重ね、より洗練されたモデルを作り直すことを楽しみにしておくことにする。

-THANK YOU!

ここまで読んでいただいてありがとうございました。 何かご指摘や、聞きたいこと等あれば気軽にコメントしていただければと思います。 それでは。

2021.03.28 Tomoaki. H.

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